本文へジャンプ 2016年9月13日  

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日本比較臨床医学会表彰

 

1.主旨

本学会が発行するJournal of Comparative Clinical Medicineまたは日本比較臨床医学会誌に掲載された論文で、特に優秀なものを、「日本比較臨床医学会賞」として表彰する。

 

2.選考方法

 表彰は原則として1年に1論文とし、理事長の委嘱する選考委員会において選考し、理事会ならびに評議員会において決定する。

 

3.表彰形態

表彰は定期総会終了後、会場に於いて、表彰状(学会賞)と副賞を理事長より授与するとともに、受賞者は記念講演を行うものとする。

 

4.これまでの表彰実績

 

(1) 平成15年度(第1回)

 

日時: 平成15年6月7日

 

場所: 東京都千代田区  専修大学神田校舎

 

受賞者: 村松梅太郎(栃木県中央家畜保健衛生所)

 

受賞論文: Analysis of serum protein in fattened dairy steers with liver abscess.

 

掲載誌: J.Comp. Clin. Med. Vol.9

 

(2) 平成16年度

 

日時: 平成16年12月12日

 

場所: 栃木県宇都宮市,宇都宮大学大学会館

 

受賞者: 大沼和気子(東京農工大学農学部)

 

受賞論文: Experimental chemotherapy against canine transitional cell carcinoma of the urinary bladder in SCID mice

 

掲載誌: J.Comp. Clin. Med. Vol.10

 

(3) 平成17年度

 

日時: 平成17年12月10日

 

場所: 東京都新宿区,日本愛玩動物協会

 

受賞者: 水谷尚(日本獣医畜産大学獣医学部)

 

受賞論文: Changes of hepatic carnitine palmitoyltransferase activity in cattle during low energy status after high energy feeding.

 

掲載誌: J.Comp. Clin. Med.Vol.12

 

(4) 平成18年度

 

日時: 平成19年1月14日

 

場所: 神奈川県相模原市,麻布大学獣医学部棟

 

受賞者: 小谷和彦(鳥取大学医学部)

 

受賞論文: The human angiotensin U type 2 receptor gene polymorphism and serum lipid levels in the early middle-aged healthy Japanese men.

 

掲載誌: J. Comp. Clin. Med. Vol.13

 

要約:

 

 ヒト脂質代謝の決定にはいくつかの遺伝子多型や生活習慣などの諸要因の関与が想定されている。最近、アンギオテンシンU2型受容体遺伝子の3123C/A多型(AT2-R A/C3123)と循環器系疾患の関係が少数報告されている。脂肪細胞は脂質代謝において代謝調節の鍵の一つで、脂肪細胞の分化・増殖などにアンギオテンシンUは関与することも知られはじめた。そこで、AT2-R A/C3123と血清脂質代謝の関係を調べた。早期中年健常日本人男性244人(平均年齢45.7歳)を集積し年齢、血圧値、体格指数(BMI)、血清総コレステロール(T-cho)と中性脂肪(TG)値を指標として得た。脂質値は標準的な酵素法で測定した。また高脂血症の存在は動脈硬化学会基準で判定した。AT2-R A/C3123多型はPCR-RFLP法にて測定した。まず、関連解析を行い、非高脂血症群(対照群)と高T-cho血症群(108人)、高TG血症群(101人)、両者を持つ複合型高脂血症群(57人)を比較した。これらの群間では、脂質値を除いて臨床指標に差はなく、またAT2-R A/C3123アルキル頻度についても複合型群でCアレルの出現は高かったもののいずれも有意な差は認めなかった。Cアリルはむしろ高BMI値と関係した。次いで、脂質値はそもそも連続変数であることから(特定の数値を境界とする診断基準による分類に則らず)、脂質値を従属変数とした相関・回帰分析を行った。T-choは単変量でT-choBMI、収縮期・拡張期血圧値と、多変量では収縮期血圧値と有意に関係した。しかし、T-choTGともにAT2-R A/C3123多型とは関係が見いだせなかった。これらの結果から、早期中年健常日本人男性において、AT2-R A/C3123多型はT-choTGやそれらの脂質異常値に明らかな関係を持っていないことが示された。しかし、アンギオテンシンUが多様な病態依存発現性を持ち、血清脂質調節に与り得る脂肪細胞(肥満)代謝へ関与すること、本結果ではAT2-R A/C3123多型と比肥満の関連も示唆されたことなどから、さらなる検討が必要と考えられた。


(5) 平成19年度

 

日時: 平成19121

 

場所: 岡崎市明大寺町 自然科学研究機構 岡崎コンファレンスセンター

 

受賞者: 兼島孝 (北里大学獣医畜産学部・みずほ台動物病院)

 

受賞論文:埼玉県内の小学校における鶏のオウム病疫学調査と清浄化の試み

 

掲載誌:日本比較臨床医学会誌142):59-63

 

要約:

 

 埼玉県K市内の小学校30校40鶏舎について、PCR法を用いたオウム病検査を実施したところ、2校2鶏舎が陽性であった。ただちに、45日間におよぶ塩化ベンザルコニウム液を用いた環境消毒と全羽への塩酸クロルテトラサイクリンによる飲水投薬を行った。同時に鶏舎の改善を指示し、野鳥の浸入が不可能なようにした。治療および消毒終了後、個体別にクロアカスワブによる採材を1週毎に2回行い全羽の陰性を確認した。以上の結果より、小学校における動物飼育の教育的配慮を保った上で、Chlamydophila psittaciC. psittaci)陽性鶏舎の消毒および治療を行う方法が確立できた。

 

(6) 平成20年度

 

日時: 平成20年7月6日


場所: 日本大学生物資源科学部 10号館第4講義室


受賞者:向 敏紀(日本獣医生命科学大学)


受賞論文:Trilostane treatment in dogs with pituitary-dependent hyperadrenocorticism


掲載誌:J. Comp. Clin. Med., Vol.15, No.1(2007)


要約:


 犬では下垂体性副腎皮質機能亢進症(PDH)は、内分泌疾患の症例としてもっとも多いものの一つである。その内科的治療には、ミトタンおよびトリロスタンの治療が試みられている。近年獣医領域でだミトタンより安全性が高いと言うことでトリロスタン治療が多く行われるようになってきた。
 18頭のPDHの犬におけるトリロスタン治療の有効性の検討を行った。18頭の犬で初診時に比べ治療一週間後において、ACTH刺激試験でのpreおよびpostのコルチゾール値の有意な低下が認められた。しかしながらその後、元気消失および食欲不振といった副作用症状が18頭中7頭で認められ、6頭が投与を中止した後に状態が回復したが、1頭が投与を中止しても改善せずに医原性副腎皮質機能低下症へと移行した。トリロスタンの有効投与量は3頭が上記の副作用によりその後の投薬を中止したため15頭において検討した。有効投与量は多飲多尿の消失ならびにACTH刺激試験後のコルチゾール値が>2かつ<10μg/dlとなった時点でのトリロスタン投与量で検討を行った。15頭の平均有効投与量は4.5mg/kgであった。また有効投与量は小型犬で高く、中・大型犬で少ない傾向が認められた。ACTH刺激試験後のコルチゾール値は15頭中12頭の犬で、治療開始後2-3週間以内に10μg/dlに低下し、トリロスタンの有効性と即効性が示唆された。
 しかしながら、ランダムに抽出した7頭の犬で初診時に比べ治療一週間後において血清カリウム濃度の有意な上昇が認められ、副作用との関連が示唆された。
 今回の研究においてトリロスタンの有効性と即効性が示されたが、同時に副作用の危険性(39%)が示された。トリロスタンは決して安全な薬剤ではなく、慎重な投与が必要であると考えられる。そのためトリロスタンを下垂体性副腎機能亢進症に用いるときは、個々の感受性の違いに留意し低い投与量で投与を開始するのが良いと考えられた。また治療のモニタリングとしては、症状の改善および副作用に関する問診の他に、ACTH刺激試験および血清カリウム濃度測定を行い、それに応じて投与量を増減していくべきではないかと考えられた。

 

 

(6) 平成21年度

 

日時: 平成21年11月29日


場所: 埼玉県東松山市 “紫雲閣”


受賞者:近江 俊徳(日本獣医生命科学大学)


受賞論文:A phylogenetic study of the origin of the miniature pig Ohmini by near-complete mitochondoria DNA sequence

 

掲載誌:J. Comp. Clin. Med., Vol.16, No.12008


要約:

 

 日本において作出されたミニブタであるオーミニは、国連食糧農業機関(FAO)は生物多様性の保持を目的とした世界の絶滅危機品種のリストに登録されている希少品種として知られている。またオーミニ系は医用ミニブタクラウンの作出に用いられている。そこで、今回、我々はオーミニの遺伝学的背景を明らかにするためコントロール領域を除くほぼ完全なミトコンドリアDNAnear-complete mitochondoria DNA)の塩基配列15,977 bpを決定した。その結果、1)オーミニはこれまで報告されていない新規のmtDNAハプロタイプを有することを明らかとした(GeneBank Accession No.  AB298688)。2)また、中国品種17品種を含む既報の20品種の塩基配列を利用した系統樹解析の結果、オーミニブタは中国品種の中央、北部および東北部の品種とクラスターを形成した。以上、今回の解析でオーミニの祖先品種はこれまで約60年前に中国から導入した満州在来豚とされていた説を支持する結果が得られた。当時に、オーミニのmtDNAは既報の中国品種17種とは一致しなかったことから、現在の中国ではオーミニの祖先品種が絶えている可能性が示された。本研究は、ブタの遺伝的多様性あるいは医用実験動物の遺伝的特性を研究する上において重要な知見と考える。

 

 

7)平成22年度

 

日時:平成221212

 

場所:日本獣医生命科学大学

 

受賞者:牧野ゆき(日本獣医生命科学大学 獣医保健看護学臨床部門)

 

受賞論文:獣医療における転送義務についての考察

 

掲載誌:日本比較臨床医学会会誌第17巻2号

 

要約:

 

転送義務とは、症例が医師の専門外の場合や、医師の臨床経験や医療設備では診断・治療が困難である場合に、これが可能な医師や医療機関に患者を転送する義務のことである。専門化が著しい近年の医療現場において、転送義務は患者に適切な医療を提供する義務の一環とされ、転送義務違反は医療過誤の一類型と認識されている。近時、獣医療領域において、獣医師の転送義務が問題となった裁判が2件(免疫性疾患の犬を高次獣医療機関へ転送するのが遅れたために症状が悪化した事例(横浜地判平成18615日判タ1254216頁)、および、獣医師が施した手術により猫の目に後遺症が残った事例(東京地判平成20618日公刊物未登載))現れた。裁判所は上記の事例について、獣医師には自ら必要な治療を実施できないことが判明した時点で、当該症例を高次獣医療機関等に転送する義務があったのにこれを怠ったとして、獣医師の責任を認めた。これらの裁判例により、獣医師の転送義務の存在、および獣医療水準ないし診療当時の知見が獣医師の過失判断の指標となることが確認された。また、症例を転送せずあえて診療を実施する場合は、専門外であっても獣医療水準に従った治療を行う必要があること、獣医師の裁量が獣医療水準によって限界づけられることが明確となった。

これらの裁判例は動物医療の高度化についての社会的認知を前提としており、それぞれの獣医療機関の規模・性質に応じた診療に対する社会的要請を示唆するものである。卒後教育の充実に加えて、大学病院等の高次獣医療施設と地域の一般的獣医療機関との連携の強化をはかることが今後の課題となろう。

 

8)平成23年度

 

日時: 平成231211


場所: 麻布大学 獣医学部棟 7階大会議室


受賞者:鈴木 馨(東京農工大学)


受賞論文 (1):野生鳥類の展示利用に向けた馴化の試み

 

(2): ヒメウズラ(Coturnix chinensis)の人工孵化の効率化と育雛におけ

る代理母の活用

 

掲載誌: 日本比較臨床医学会会誌第18巻2号

 

要 約 (1)

傷病で保護・救命されたものの、飛翔能力を失うなどして放野不可となった野生鳥類の活用法の一つとして動物園等での展示利用がある。この際、野生動物から展示動物への円滑な転換のため適切な馴化を図ることが望ましい。そこで著者らは保護から1年以上経過し、確実に放野不可と判断されたツミ(Accipiter gularis)、キジバト(Streptopelia orientalis)、ツグミ(Turdus naumanni2個体、ヒヨドリ(Hypsipetes amaurotis)の4種計5個体に対して、5週間に亘り、展示利用を想定した視覚および聴覚刺激からなる負荷を与え、その影響・効果を観察した。実験に当たり、奥行90cmで統一され、行動観察の便宜上、手前から30cmごとにZone1Zone2Zone3に区分されたケージを用意した。対象動物は実験開始の1週間前からこのケージで飼育し、かつ給餌に対する反応を観察する必要から、2時間の絶食を行い、それらに馴れさせた。実験は2時間絶食させた後に餌を入れた時を起点とし、毎日30分間、50cmの距離から連続した目視による視覚刺激と人のざわめき等種々の録音音声による聴覚刺激を与えた。観察・評価項目は、体重、1日当たりの総採餌重量、30分間の目視・観察中における採餌重量、各Zone別滞在時間、その他所見の記録とした。実験の結果、体重はツミでおよそ150gから200g程度に増加傾向を示したが、他の4個体ではほとんど変化することなく維持された。1日当たりの総採餌重量は、いずれの個体でも概ね20%以内の増減に収まり、大きな変化は認められなかった。30分間の目視・観察中、ヒヨドリでは採餌行動が見られなかったが、ツミ、キジバト、ツグミ2個体では採餌が活発となり、30分間の摂取重量がそれぞれ約30%から100%以上増加した。Zone別滞在時間とその他の観察所見については、ツミでZone12すなわち観察者に近いZoneの滞在時間が増加するとともに、滞在区域が多様化し、35日では各Zoneの滞在時間がほぼ3分の1ずつとなった。キジバトでは、14日に不安からと推測されるZone1滞在時間の一時的増加と常同行動の発生が認められたが、まもなく沈静化した。一方のツグミでは実験開始日のZone2滞在時間が探索行動から80%弱と著しく高かったが、以後はZone3で落ち着いていることがほとんどとなった。もう一方のツグミは、7日に観察者に対する自発的な接近行動が消失したが、間もなく再び接近するようになり、その後問題ある行動も認められなかった。ヒヨドリでは、Zone別滞在時間に変化は認められずZone23がほぼ全てを占め、視覚・聴覚刺激に対する持続的興奮が発生していた。結論として、今回展示利用を想定して試みた負荷刺激は、個体の体重や採餌量に負の影響を及ぼすことなく安全であり、環境に適応して採餌行動や行動域を増加させる個体や、不安から落ち着きを取り戻す個体も見られる等、有効性の認められる馴化処置であると同時に、展示利用に不適な個体の判別にも利用できると判断され、展示利用等に向けて踏むべき段階になり得ると思考された。

 

要 約 (2)

鳥類の保護増殖における効率的な手段を提示する基礎研究として、ヒメウズラ(Coturnix chinensis)をモデルとして用い、人工孵化過程の卵重変化の観察及び育雛における代理母の活用を試みた。3ペアより得られた卵(n51)を孵卵器に入れ、毎日卵重を測定して卵重減少率=[1(その日の卵重/入卵時の卵重)]×100%を算出し、孵化させた。同時入卵したもののうち最初の雛が孵化した翌日になっても孵化しない卵は全て割り、無精卵か発育中止卵かを判別し、孵化率=[孵化数/(孵卵器入卵数−無精卵数)]×100%を算出した。孵化した雛は、同種の成鳥と接触させず飼養管理される人工育雛群(n8)と同種のメスを代理母として同居させる代理母育雛群(n7)に血統が偏らないように分け、毎日体重を測定しながら21日齢まで育雛した。21日齢の時点で各群の生存率=(21日齢雛の生存個体数/0日齢時点の雛個体数)×100%を算出し、生存個体の行動観察を行った。行動観察は、通常の飼育環境(通常環境)と、人間が1分間隔でケージから1m離れた地点を横切る環境(攪乱環境)2条件下で10分間ずつ行い、採餌、自己管理(羽繕い等)、警戒、休憩、その他(移動等)の各行動の出現頻度、及びそれぞれに費やした時間を記録した。今回人工孵化を試みた卵の孵化率は80%であった。いずれの卵も日数と共に重量が減少したが、孵卵器入卵2日後以降、無精卵(入卵2日後の卵重減少率=3.51±2.67%n26)は受精卵(入卵2日後の卵重減少率=1.89±2.18%n25)よりも卵重減少率が有意に大きくなった(p<0.05Student’s t-test)。雛の体重増加は人工育雛群よりも代理母育雛群の方が早く、2日齢(人工育雛群=3.49±0.25gn8:代理母育雛群=3.96±0.43gn7)以降、有意差が検出された(p<0.05Student’s t-test)21日齢の時点での生存率は人工育雛群50%、代理母育雛群57.14%であった。しかし、人工育雛群の主な死亡原因が採餌の習得が困難であったことに対し、代理母育雛群の死亡原因は全て事故によるものであった。行動観察の結果、代理母育雛群(n4)は通常環境よりも攪乱環境で警戒 (通常環境:頻度=8.75±1.71回、時間=118.75±44.35秒;攪乱環境:頻度=13.25±3.40回、時間=305.50±73.35)が有意に増加し、自己管理(通常環境:頻度=4.00±1.83回、時間=45.25±26.66秒;攪乱環境:頻度=1.75±1.71回、時間=12.75±14.97)と採餌(通常環境:頻度=11.50±2.38回、時間=176.50±49.91秒;攪乱環境:頻度=1.75±2.06回、時間=36.50±46.48)が有意に減少した(p<0.05Student’s paired t-test)。一方、人工育雛群(n4)では通常環境と攪乱環境で行動にあまり変化が見られなかった。今回の孵化率は8割であり、卵重減少率の差異を利用して早期に受精卵と無精卵を弁別できることが明らかにされたことから、孵卵器を使用することにより効率的な孵化が可能と判断された。一方育雛における代理母の活用は、雛の早期の体重増加や適当な行動獲得への有効性が示されたことから、雛の順調な成長を通して安定した個体供給を生みだし、保護増殖に有益に働くと結論づけられた 。

9)平成24年度


 該当なし

10)平成25年度

日時:平成25119

場所:自然科学研究機構 生理学研究所

受賞者:呰上大吾(日本獣医生命科学大学)

受賞論文:Systemic Mycobacterium avium complex infection with multiple vertebral osteomyelitis in a young dog.

掲載誌:J.Comp. Clin. Med. Vol.19

要約:

 3才齢のチワワが発熱、食欲不振、後肢不全麻痺を主訴に近医を受診し、各種検査にて多発性椎体骨髄炎の所見が得られたため、本学に紹介された。本学における検査にて脾腫が見られ、穿刺細胞診を行ったところ抗酸菌を貪食したマクロファージが多数認められた。全身性抗酸菌感染症と臨床診断し、隔離下で多剤併用化学療法を行ったが改善は見られなかった。飼い主の同意を得て安楽死し剖検を行い、本症例を全身性Mycobacterium avium complexMAC)感染症と診断した。

  動物において非結核性抗酸菌症は鳥や豚に高頻度に認められ、その多くはMACにより引き起こされる。それに対し、犬や猫はMACに抵抗性が高く、犬においては稀な疾患と考えられている。稀な疾患ではあるが、MACは犬において菌血症を引き起こしやすく他臓器を冒すために小動物獣医療では重要な疾患である。バセットハウンドやミニチュアシュナウザーは抗酸菌症の好発犬種と考えられるが、他の犬種においても症例報告が行われている。過去に報告された25例の中では、21例(84%)は本症例の様な4歳以下の若齢犬で、3例(12%)のみがそれ以上の年齢であった。好発犬種においてはT細胞やマクロファージを含む細胞性免疫機構の異常が存在すると考えられている。散発性に発生する他の犬種においても同様のメカニズムが原因と考えられるが、本症例における免疫機構の状態は残念ながら調査していない。

  犬のMAC感染症に共通する臨床症状は、体重減少、元気消失、間欠的な消化器症状などの非特異的症状であることが多い。さらに、本症例の様に後肢の跛行や麻痺も共通する臨床症状である。本症例においては、後肢麻痺の原因となる脊髄病変を同定するために第一にMRIを行い、多発性椎体骨髄炎とそれに伴う骨外性病変が検出された。これは血液塗抹標本とL4病変のFNA標本の両方において貪食された抗酸菌が認められたことから、血行性に広がった病変と考えられた。多発性椎体骨髄炎は人の抗酸菌感染症においては発生率の低い合併症であるが、犬における発生率は不明である。過去に報告された多くの症例で後肢の跛行や麻痺を呈することから、何例かは本症例と同様に椎体脊椎炎を併発していた可能性が考えられる。人の椎体骨髄炎ではMRIが感度の高い検出法として報告されており、犬のMAC感染症においても有用であるかもしれない。

  犬の全身性MAC感染は治療に対して非常に抵抗性が高く、報告されているほとんどの症例は安楽殺されている。(猫のMAC感染に対しリファンピシン、エンロフロキサシン、クラリスロマイシンを使用し治療に成功した例が非常にまれであるが存在する。)本症例も同じプロトコールで2週間治療を行ったが、非常に限定的な臨床症状の改善しか見られなかった。通常、抗酸菌感染症は長期間の治療を必要とするため、本症例の治療期間は治療効果を評価するには不十分であったかもしれない。しかしながら、薬剤感受性試験の結果を考慮すると長期的に治療しても少なくともリファンピシンの薬効は低かったと考えられた。犬においてもクロファジミンを含む多剤併用療法が有効であった数症例が報告されている。治療経験の積み重ねにより、犬のMAC感染症に対する有効な治療プロトコールを考える必要があると考えられた。しかしながら、現状では治療に先立ち潜在的なズーノーシスの可能性に対しても考慮は必要である。

  我々の知る限り、本報告は犬の全身性MAC感染により引き起こされた多発性椎体骨髄炎のMRI所見を記述した最初の論文である。近年、獣医療においてMRIが普及し、様々な脊髄病変をより容易に検出できるようになってきている。犬(特に若齢犬)において、MRIで多発性椎体骨髄炎が発見され、好気性・嫌気性環境下で細菌が分離されない場合には、抗酸菌感染症も考慮に入れる必要があると考えられた。

(11)平成26年度
日時:平成27年3月1日

場所:東京農工大学 府中キャンパス

受賞者:松原 孝子(日本獣医生命科学大学)

受賞論文 (1)放射線療法を受ける動物の看護を考える(第1報)
         -現状把握と看護記録分析-         
       (2)放射線療法を受ける動物の看護を考える(第1報)
         -患者動物記録の導入-

掲載誌:日本比較臨床医学会誌第20巻2号

要約(1):
  本研究では放射線療法における動物看護の役割を考究するための基礎データーを得ることを目的として放射線療法に際しての動物介入の現状を調査した。その結果、放射線療法が機能的・効率的に行われるための職種別に役割を担い、なかでも、放射線担当動物看護師は、照射室内にて、個別性を配慮した安全の確保ならびに苦痛等軽減のための援助を行っていた。しかしながら、必要とされる飼い主との接触や、来院から帰宅までの一貫性のある援助に関わっていなかった。

要約(2):
  動物の放射線療法の現場に関わる獣医療者同士で患者ごとの個別性のある情報を共有する目的で、患者動物についての放射線療法動物看護記録を作成し、導入した。さらに、獣医師、動物看護師、飼い主によって記録導入の評価をした。その結果、患者動物についてのより有用な情報を収集ができるとともに、飼い主に対してより有効な援助を行える機会につながった。同時に、獣医療の放射線療法では、麻酔の侵襲や有害事象について家庭における患者動物の観察、援助が必要であるため、来院時における患者動物の観察と加えて飼い主の支援という役割があることが推測された。

(12)平成27年度

 該当なし